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  陶肌は温かさ、柔らかさに満ち、意匠は優美かつ雅な表情を浮かべている。瑞光窯謹製「陶製洗面器」を目にしたときのこと。歴史的史跡を数多く残し、平安王朝文化を今に伝える……そんな京都ならではの癒しと典雅を映し出しているかのように思えた。京では癒しと典雅が織り成す空気を「ほっこり華なり」という言葉で表されるが、まさにその作品は心に和み、目に華やかさをもたらしてくれた。
同作の制作総指揮を執ったのは瑞光窯の陶芸家・土谷徹氏。実際に窯元を訪ね、秀作誕生の工程を探った。

土屋氏について詳しくはこちらから→
 
 
 まずポイントとなるのは、「土取り」の量だ。土の塊から一定の分量を手先の感覚だけで量る。当然、土の量は作品の大小サイズによって異なるため、職人はさまざまな重みを手に記憶させなければならない。

 そして、ろくろ挽(ひ)き。ひび割れのない強い陶器に仕上げるため、手と木ベラを使って圧力をかけながら成形する。これを「土を締める」という。陶製洗面器では、とりわけ水が流れる鉢底の部分に力がかけられている。
 
 ろくろ成形後の原型は、いったん半乾燥へ。この乾燥の精度が、削りの工程で重要になる。その日の温度や湿度に応じて、室(むろ)・室内・外周・乾燥室といったおおまかに4つのスペースから最適な場所が選定される。乾かしすぎると陶器の質感が硬くなり、一方、乾き具合が甘ければ、削り具合も甘くなる。
 陶製洗面器の場合、半乾燥で約5日間、全乾燥で約2日間、乾かすだけで計約1週間。その出来を判断するのは、「手で重さを量り、目で色を見る」(同氏)と、ここでも職人の冴えた勘を要する。削りの後の全乾燥でも同じく、日々異なる乾燥場所を判断しなければならない。
 削りと全乾燥を終えた後、「一珍」という手法が施される。一珍とは、「ケーキ作りに使う絞り出し袋のような道具を使って、素地に模様を施す手法です」と同氏。確かに、陶肌をよく見ると、描かれた花模様が盛り上がっていることがわかる。この工程が入る分、一般的な作品よりも制作時間がかかるのは必定。しかし、技巧を凝らしただけあって、まるで絵画作品のような奥行きのある作品に仕上がっている。
 
 素焼きでは電気炉を使う。洗面器は、約850度、およそ10時間かけて素焼きされる。その後、冷ますこと30時間以上。のちの本焼きでも同じことが言えるが、ひび割れを防ぐためにも「ゆっくり焼く、ゆっくり冷ます」に気をつけなければならない。
 
 数ある色と筆を操り、絵や彩色を凝らす絵付師たち。「濃淡の表現が最も神経を使うところ。ちょっとした力の入れ具合で濃くなったり、薄くなったりしますから」と同氏は話す。ここで、サクラ、テッセン、2種の花をモチーフに描かれた陶肌を見てほしい。手前の花は濃い目、遠くの花は薄目と、濃淡を見事に使い分け、遠近感が演出されている。
 ツヤを出したり、消したり、色の出具合を調整したり……。硬い、柔らかいといった陶器の質感を醸し出す「釉薬」。同氏によると、「釉薬の種類は数限りなくある」とのことだが、工房では主に15種類を使用。またかけ方一つをとっても、浸しかけ、吹きかけなどがある。ちなみに、洗面器では「2種の釉薬が浸しかけ」されている。
 実は同氏、長年にわたって釉薬を研究してきたスペシャリストである(プロフィール参照)。以上の工程で見てきたように「手先の感覚と釉薬の技術の融合」が瑞光窯の強みとなっている。
 
 約1250度のガス炉で、約18時間かけられて本焼きされる。電気炉と違い、ガス炉は「窯詰め」する場所によって、その温度が異なってくる。素焼きと同様、じっくりと仕上げるためには、「炎から遠いところに詰めること」(同氏)が大切なポイントだ。冷ますのも、およそ20時間費やしてゆっくりと。そしていよいよ秀作誕生を迎える。
 
見学を終えて〜
 瑞光窯で目にしたのは、陶器一点に専心する13人の職人の姿。それぞれが各工程において、土、素地、道具に真剣なまなざしを注ぎ、繊細な手さばきで命を吹き込んでいく――作ることへのひたむきさ、作品への慈しみが感じられる手仕事風景であった。陶製洗面器を見ると、なぜか温かい気持ちになるのは一人ひとりの真心が込もっているからだろう。